働き方を考える(3)なぜ働くのか

経営者と労働者の規律は異なる。

だからこそ、経営者は、自らが「365日24時間死ぬまで働け」との心意気で仕事に取り組んでいたとしても、同じことを従業員に求めてはいけない。それをやると、本当に従業員が死ぬことがある。

だが、そのことを理解しない経営者はいまだに少なくない。

当事務所には従業員もいるので、我々が従業員の働き方についてどのように考えているか触れておきたい。

労働条件について

当事務所の基本的な労働条件の例を挙げると、勤務時間1日7時間の週休2日制である。有給休暇に関しても計画的付与の協定を結んで消化に努めている(それでも余ってしまうため申し訳なく思っている)。

働いている人の待遇が悪すぎると様々なリスクを招く。例えば、レピュテーション的にも宜しくない。裏返していえば、労働条件を整えることは、経営を安定的に維持するためにも重要な意味がある。

なお、悪辣な経営者が率いる企業の商品なんかイヤだ1、と思う人も決して少なくない。最近は炎上という現象もある。そういった点に益々敏感にならざるを得ないのは、どんな企業にも共通する課題である。

タイムカードは正確に

当事務所ではタイムカードで勤務時間を記録している。

ところが、従業員を採用した当初には、タイムカードが正確に押されていないことがあったり、時間が書き加えられていたりしたことがあった。

しかも、どういうわけか従業員に不利になっている。一般的には、そのような慣行でもあるのだろうか。

それで、タイムカードの扱いに関して「押したらすぐに帰ること」とか「絶対に手を加えてはならない」と指示していた。杓子定規過ぎて従業員は戸惑ったかもしれないが、そのような点は良く励行してもらっている。

早く来てはいけない

従業員は真面目であるから、始業時間より早く来て掃除とかやっていたりする。早く出勤すれば普通は偉いと評価されるのだろうが、当事務所ではそうではない。

むしろ、「30分前に来るとか飛んでもないから定められた時間に出勤してください。」と苦言を呈したことがある。

これでは杓子定規過ぎて、むしろ従業員の意欲を損なうのかもしれない。

しかし、人生は仕事だけではないのであるから、仕事は決まった時間内になすべきである。従業員が早く来たとか遅く帰るというようなことで、その信頼性や忠誠度を測るとかいう封建的な悪習は早く消え去った方が良いと心から願っている。

新入社員に対して始業30分前に出社することを説いて話題になった秀麗な経営者2もいたが、これは間違っている。最初に述べたように、経営者と労働者の規律は異なる。だから、経営者の側から進んでそういうことを言うのは良くない。

人は何故働くのか

そういった諸々の考え方は、世間的には受けが良くないと感じることがある。

例えば、労基法の建前なんかクソ真面目に守っていたら会社がつぶれる、というのが代表的な批判である。

本当にそうだろうか?

確かに、法令遵守のためにコストが増えれば、株主や経営者の取り分は少なくなる。だが、それですぐに企業がつぶれるわけではない。むしろ、最近は、法令違反によって生じるリスクの方が無視できないほど大きく、企業に致命傷を与えることがある。

そもそも、従業員が雇用契約上の義務を超えて、企業のために尽くさなきゃならない理由なんてものは本来的にはない。だから、働いている人には限られた時間内に集中して仕事をしてもらい、その余は自由に過ごしてもらうのが良い。

なお、企業のために仕事をするべき立場である経営者は、成果を得る努力や工夫を惜しんではいけない。ただ、経営者も人間である。文字どおり365日24時間働けば死んでしまうのだから、何をどこまでやるのかは自律的に判断すべきである。

まとめ

昨今、従業員の幸福を追求するといった経営理念を掲げる企業は少なくない。とても善いことだと思う。

では、幸福とは何か。一言でいえば、幸福とは自己実現のことである。そして、どのように働くかということは、自己実現の要素の一部に過ぎない。すなわち、従業員の幸福を追求するということは、従業員を必要以上に仕事に縛り付けない、という意味を含んでいる。

繰り返し述べるが、人生は仕事のみではない。

我々自身は、極めて小さな経営を実践しているに過ぎない。とはいえ、働くことのあり方はより多様であって良いという発想が広く受容される社会となるよう、今後も努めることにしたい。

(おわり)


  1. 労働問題に関するものではないが、経営者の言動が不買運動に発展した代表的な例として、東北熊襲発言がある。そもそも東北地方は熊襲ではないので、この発言はあらゆる意味で間違っている。 

  2. この人は、司法試験にも受かっていて法律を知っている人なのであるから、新入社員に働き方の心構えを説く趣旨なのであれば、別の表現の仕方をすべきであったと思う。 

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