法律事務所の成仏戦略(3)法テラスとのお付き合い

お金のことを考えていてはできない仕事としては、法テラス関連業務が代表的なものです。

法テラス(日本司法支援センター)の主な業務としては、お金のない人に民事事件の弁護士費用を立て替えること(民事法律扶助)、及びお金のない人の刑事事件の国選弁護に関する業務を行うことがあります。

 

民事法律扶助の問題点

民事法律扶助案件の受任には、いくつかの高いハードルがあります。

まずは、弁護士費用が低いことに尽きます。

結構高いと言われることがありますが、弁護士費用の全部が弁護士の手取りにはならないので(自営業の経験がない人だとよく理解して頂けません)、割には合いません。

次に、依頼者が事件処理に必要なことを弁護士に伝える力が十分でないことも多く、必然的に、事情の聞き取りや見通しの説明により多くの時間を費やすことになります。

また、次のお客さんの紹介を期待できないことも多いです。

そして、手続が一般の仕事よりも煩雑です。

法テラスに対する申請に必要な書類を揃える必要がありますし、報告書類も増えます。この点に費やす時間も他の事件よりはどうしても多くなります。

 

その帰結

こうしてみると、法テラスを経由して受任する案件については、必然的にこうなるでしょう。

まずは合理化を試みることになります。弁護士自ら行う処理を減らしたり、システム化する方向性です。行き過ぎれば手抜きが生ずるかもしれません。

それは避けねばなりませんが、経済的合理性だけを考えると負のインセンティブが働きかねません。

更に行き着くところとしては、法テラスとの契約は手間だから止める、という対応をする弁護士が増加するかもしれません。

 

法律扶助業務の拡充を考えるのであれば、一件あたりの単価を上げることで予算を獲得してくる方が遙かに有益です。そうでなければ、法律扶助案件は弁護士に見向きもされなくなります。

経営が苦しい弁護士が増えれば引き受け手が増えるとは限らないのがポイントで、法テラス経由で事件を受けるくらいならボーッとしていた方がマシだ、というのは経営戦略としてはあり得ます。

なぜなら、より収益性が高い事件が受任できる可能性があれば、機会損失が生じるからです。ですから、法テラスの仕事はやらないという弁護士がいたとしても、その経営判断は責められません。

 

国選弁護業務の問題点

国選弁護業務に関しても、国選弁護人の報酬が低いことは同じです。

ただ、被疑者国選や裁判員制度が開始されるなどの影響で、従前よりはほんの少しだけ弁護人の努力が反映されるようにはなっています。

しかし、それで事務所の経営が維持できる収益が上がるかというと全く別の問題です。

例えば、昨年の当事務所の刑事弁護事件はほぼ全てが国選弁護でしたが、そこから得られる報酬は売上の3%にもなりませんでした。では費やす時間が3%を下回るかといえばそんなことはなく、その数倍は費やしています。

つまり、民事法律扶助でも述べたとおり、他の仕事の方が収益性が高いからやらない方がマシだという構造は共通します。

 

なお受けるべきか

それでも、法テラス関連の事件を受けなければならない理由はあります。

民事法律扶助に関しては、本当に困っている人が助力を求めることは少なからず存在するからです。いざというときにそれを見捨てていいのか、というのが、弁護士としての考え方、あるいは生き方として問われると思います。

国選弁護に関しても、権力に対峙し、そして法廷での業務を行うという点では、弁護士業務の核心ともいうべき価値を有する仕事ですから、経営上の理由だけでやめるという訳にはいきません。

 

法テラスに対しては常々文句を言い続けているのですが、以上の事情により法テラスとの契約を打ち切るべきではないと思うので、今も委嘱に応じて法律扶助案件や国選弁護事件を受任することにしています。

(つづく)

 

 

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