法律事務所の成仏戦略(4)生きろ!弁護士!

成仏理論の第2の命題は、「人間は飢え死にさえしなければよい」ということなのですが、これまで見てきたとおり、弁護士がお金のことを考えないで業務を行うと収入があまり入ってきませんので、当たり前ですが経営が成り立ちません。

これでは飢え死にするので成仏理論は実践困難です。

それでもなお、弁護士がやらなければならない仕事は間違いなく存在します。では、どうやって弁護士として生き抜くか。それがこの稿で取り上げるテーマです。

 

1.借金をしない・破産はゲームオーバー

弁護士は破産をすると資格を失います(弁護士法7条5号)。

久保利英明先生は借金に関して、「借金を一日でも早く返そうとすれば、力も付いてより良い仕事が出来るようになります。」と語っていました。

しかし、弁護士業務を取り巻く事業環境が激変し、先行きも不透明な現在では、もはや破産による失職を回避する必要性や、資金繰りを原因とする不祥事を予防する要請の方が強いように感じます。そのような意味で、負債をできるだけ抱えないことは重要です。

もっとも、最近は司法修習が貸与制になってしまったので、貸与を受けるといきなり借金を抱えて厳しいスタートを切る状況になります。

それ故に貸与制は重大な問題であると考えていますが、現実的には、できるだけ貸与を控える方法を考えるか、償還の見込みをかなりシビアに検討する必要が生じているように思います。

 

2.経費は最小に・収益は最大にならない

業務の運営に費用を掛けないことも並んで重要です。

業務拡大に外部の力を要することは否定しませんが、一般的には零細企業体である法律事務所においては、外部資源に頼ると費用に見合わないことも多々あります。色々なことを自前で出来る能力を付けておくに越したことはないように思います。

例えば、広告の問題があります。

広告の単価を考えると、過払いバブル的な事態が発生しない限り、マスメディアを用いた広告を派手に打つことは難しいのです(今は異常な状態ともいえます)。

ではどうするのか。地道に活動して顔を覚えてもらうことです。そういう場面で、お金にならない仕事を普段からやっていることが生きてくることがあります。成仏理論の核心はそこにあるのかもしれません。

また、情報技術を知っていると役に立つことが多い時代です。

例えば、道弁連のウェブサイトは年85万程度の管理費用が予算として計上されていますが、更新の頻度は多くないため、予算を聞いて驚いたことがあります。便利なIT関係のツールは安価に手に入る時代ですから、多少の努力で費用対効果を高めることができます。集客にどの程度役立つかはともかく、このウェブサイトも自前で構築しています。

そして、生産手段を賃貸借やリースに頼るのは一般的ですがなかなか曲者です。

当事務所も開業当初は、賃貸物件に入居し、機器のリース料も払っていました。ところが、何とかして事務所を所有し、リース物件も買い取り、概ね自前の範囲で経営するようになったところ、これまでの費用負担がいかに重かったのか痛感しました。少しずつでも生産手段を所有して経営を図ることは意義があります。

 

3.自分で考える・弁護士は良いカモ

経営の問題を自力で考えることは、職業倫理の維持の上で極めて重要なことです。

人に頼ると、怪しい開業コンサルタントみたいな人達が出てくることがあります。そしてコンサルタントフィーが経営を圧迫することもあるでしょう。

中には、ヤミ金だった人が弁護士へのコンサル業務を扱っていたようなケースまで聞こえてきます。

気を付けないと食い物にされかねません。実際に非弁提携も絶えないご時世です。

そういう意味で、経営のことを自力で考え抜くことの重要性はかつてより増しています。

 

4.まとめ・金目の問題ではない

結論としては、弁護士の事業は小さく産む、ということに尽きるかと思います。

大きく育つかどうかは意欲次第ですが、事業の大小よりも肝心なのは弁護士が直面する種々のリスクを回避しながらしぶとく仕事を続けていくことであり、その点に関する知恵の出し方、工夫の仕方は様々だろうと思います。

あとは、生き方の問題なのかもしれません。

平均的な生涯賃金だけならば、順当に大学を卒業して銀行や商社に就職した方が上回るかもしれないご時世です。そうすると、弁護士だと何ができるのか、あるいは、弁護士は何をやらなければならないのか、ということを真剣に考えて生きて行かない限り、現世での怨みが積もって成仏が困難になるような気がしています。

 

 

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