6月19日の日弁連理事会内で行われたCOVID-19対策本部全体会議では、執行部が野党会派に持って行った要請の内容が示されることになった。
ただ、それまでの経緯としては、12日に法案が出てきてこんなの聞いてないぞと思った当職が、15日にこの件の経緯を説明されたいというメールをMLに投稿し(なお、同様の指摘をした理事はもう一人いた)、その後に議題として上がってきたという流れであった。
誰も指摘しなかったら、何も説明しないで済ますつもりだったのであろうか。おそろしい話である。
検討施策とされた項目
さて、本件は、政治への働きかけで機微を含んでいるから、公開に適さないといった考え方もあるかもしれない。しかし、そこに示されていた内容が実現することがあれば、多くの会員の利害に強くかかわり社会的な影響も大きいことが予想されるから、必要な範囲で内容を明らかにしつつ批判を加えざるを得ない。
示された資料中、検討施策とされていたものは以下の6項目であった。とりあえず項目だけ掲げる。
- 弁護士による労働問題相談
- 賃料問題ADRの設置
- 雇用調整助成金の審査・支給業務への弁護士派遣
- 小規模事業者の法的支援(代理援助)
- 福祉機関等の支援者に対する法的支援(法的助言)
- 新型コロナウイルス感染症対策としての総合法律支援に関する特例法
もちろん、これらの検討施策は執行部及び事務局の思い付きレベルのものでしかなく、実現には関係省庁や法テラスとの調整が必要であるという認識はあったようではある。しかし、会内の調整を経ずに、対外的に提案することはあり得ない内容が含まれているので、以下、個別に検討する。
各項目の検討
上記2.の賃料問題ADRについては、各地の弁護士会でコロナ関連災害をADRで扱う動きはあるので、その延長線上の話ではあるだろう。
上記3.の雇用調整助成金の審査・支給業務への弁護士派遣という点については、そこは社労士さんに任せるべき領域ではないかという感想である。
上記4.は後述する。
上記5.の福祉機関等の支援者に対する法的支援(法的助言)については、職員さんが直面する問題を独自に相談しやすくすること自体には意味もあろうから、法律相談援助に留まる限りでは結構かと思う。
法テラスの適用領域拡大
大問題であるのが上記4.の小規模事業者の法的支援(代理援助)というものである。
重要なところなので、野党に示したとされるペーパーの記載内容をそのまま書くと「小規模事業者が弁護士費用を気にせず、法的問題に対応することができるスキームを作る(個人に対する民事扶助同様に中小企業庁が日本司法支援センターに業務を委託して弁護士費用を立て替える=総合法律支援法30条第2項を活用)。」とあった。さらにいうと「小規模企業者が抱える法的課題を総合的に支援する」「新型コロナの影響でキャッシュフロー倒産の急増が懸念される」「資金繰り折衝、労働問題、取引先との契約トラブル、事業承継問題、倒産申立てなどを弁護士が代理援助するスキームを構築する。」と書いてあった。
コロナの問題があるにせよ、それを契機に小規模事業者向けの市場まで法テラスの介入を許すとすれば、民業圧迫以外の何物でもない。
小規模事業者を含めた中小企業向けのサービスをいかに提供して顧客層の充実を図るかということは、法律事務所の経営維持の観点からは極めて重要な要素である。それだけに、この分野の業務の開拓のために個々の弁護士も自助努力をしてきたし、また、日弁連でも、弁護士業務改革委員会や中小企業法律支援センターといった関連委員会が知恵を絞ってきた。そうであるから、たとえ思い付きのレベルであろうともこのような施策の提案を対外的に行うということ自体、これまで努力をしてきた多くの弁護士に対する背信行為である。
連合会のガバナンス
執行部は、このような内容を含む要請をしたことについて、「緊急性があった」「東日本大震災の時の例にならった」「会務執行の継続性を考慮した」といった説明をしていたように理解している。
しかし、緊急性があるから余計なことをしていいわけではない。また、東日本大震災を引き合いに出すのは特措法案の関係であるが、そのころと何がどう違うのかは良く考える必要がある。そして、会務執行の継続性を考慮するというなら、みんな知らない思い付きみたいな内容で事を進めていいわけがない。いずれの説明も破綻している。
これは一刻も早く会務運営の正常化を図るべき事態のように見える。各単位会及び諸会員は、黙ってないで執行部に各自の意見をしっかり伝えることが大切であろう。連合会の適正なガバナンスの維持には、そうした活動が欠かせないと思われる。