理事会2日目の冒頭5分程度、理事からの特別発言の時間が設けられています。各ブロックが抱えている課題や特色ある活動等々について自由に発言し、各地の実情等を共有することが企図されています。
良い機会でしたので、「司法制度改革の進展と地方弁護士会への影響」という題で若干のスピーチをさせていただきました。
要旨は次のとおりです(少々表現は変えています)。
特別発言の機会をいただきありがとうございます。私は、修習56期、2003年より当会に入会し、その後ずっと帯広市内で活動をしています。私が修習生だったころの当会は30人もいませんでした。私自身は、東京の生まれで縁もゆかりもないところでしたが、仕事にも恵まれ生活環境も良いということで入会しました。
日弁連の会務では、司法制度調査会で民亊と刑事の裁判記録の保存の問題を扱いましたし、憲法問題対策本部と弁護士業務改革委員会にも所属していました。記録保存の問題はやっと動き始めました。また、憲法と業革の両方をやって、人権と業革は弁護士の車の両輪だということを学びました。そのような次第で、会務を中枢で支えておられる執行部、事務局、そして各地の理事の皆様方には大変感謝しております。
さて、本日は、司法制度改革の進展と地方弁護士会への影響についてご報告します。
司法制度改革の三本柱として、ロースクール、法テラス、裁判員裁判があります。これらはいずれも司法基盤の人的質的な強化という狙いがありました。では、地方においてその効果はどうだったのかということです。
一番目は、法曹人口増加です。
北海道の東の方にはロースクールはありません。北海道では事実上北大が残るのみです。当会で弁護士増加に好影響を与えていた事情として、司法修習48期以降の釧路修習の実施があります。ところが、修習が貸与制になったことで、釧路修習がより敬遠された時期がありました。当時の修習生は就職活動の費用もままならず、その上、就職自体も苦労していました。とてもつらそうでした。修習生のための予算はどこへ付け替えられたのかと思うと、その恨みは忘れられません。
当会の会員が増加する見込みはあるかどうかというと、司法試験の合格者数とは関係しないかもしれません。人口と経済の動向に左右されます。今後は私のようなよそ者が突然来ることで弁護士が増えるのは期待できないと見ています。その一方で、増え続ける公益活動をどうさばくかということは今後深刻な問題となります。当会の大きな課題です。
二番目は、法テラスです。
北海道の賃金水準、特に札幌から離れた当地では、個人の顧客は資力基準を満たしてしまうことが多いです。そうすると、法テラスの報酬基準がダンピングの効果を発揮し、所得低下を招きます。それで一応は食ってはいけるかもしれませんが、事務所を拡大しようとか、別の分野を勉強しようという形での将来への投資ができなくなります。経営に必要な再生産ができないのです。本業と別に、恒産が3億あるだとか宝くじが当たるとかいうことがなければ、ジュディケアは持続可能ではなくなっています。こうなると、法律扶助の教示義務を定めた職務基本規程33条は無理を強いております。規制の前提を欠くのではないでしょうか。
ところで、先日、新型コロナ対策で資力基準を緩和する法案が出されたと聞きました。日弁連の要請を聞いて作られたらしいです。自分でやらない人が大風呂敷を広げたのかと思いました。仲間の首を絞める法案を要請するとは、思慮が欠けているとしかいえません。
三番目は、裁判員裁判です。
裁判員裁判は釧路本庁のみでの実施です。裁判員はもちろん、弁護人にも大きな移動の負担が生じています。特に、連日開廷による拘束は支部の弁護士には死活問題です。これが当たったら事務所がつぶれるという危機を感じ、当番や国選に関しては怖くて引き受けられなくなりました。しかも、以前には120キロ離れた釧路へ毎日車で日帰りできるからと、法テラスは宿泊費を出さないことすらありました。なぜ、支部の弁護士だけ特別な負担を強いられるのか疑問に思います。
以上、目指すべき方向性をまとめます。
私が望むのは、司法制度改革の20年間を主導した方々には、正の側面とそれを上回る負の側面を総括してもらうことです。書斎生活に入っているなどと言い訳する人もいますが話はそれからです。
そして、会員間の分断の解消を図ることです。司法制度改革の目的は司法基盤の強化にありました。国民に支持される司法の実現には公益活動は不可欠です。しかし、法テラスひとつとってみても、いやならやらなきゃいいとか、国から300億も取ってきたのに文句言うのか、といった不遜な態度の人もこの連合会の中にはいます。今の状況が行き着く先は、救われない人を救おうとする良心的な会員の疲弊、それによる司法基盤の弱体化です。
この連合会を構成するみなさんの仲間の誰かがやらなければいけないこと、そういうことは少なからずあるのです。そこで、持続可能性を維持しつつ公益を実現するという視点が、当連合会には不可欠です。範囲の限られた地方のことではありますが、私もその一員として少しずつ取り組みを進めて参ります。どうか、日弁連の皆様からもご助力をお願いいたします。 ご清聴ありがとうございました。
このような意見は、必ずしも法曹界で主流の立場ではないと思います。
しかし、これまで司法制度改革の理念のごとく様々な活動をしてみたところで、困難や失望を感じることも少なくはありませんでした。そのような思いを共有してもらうことができれば、ありがたいことです。少しずつしか進まないこともあろうかと思いますが、今後も、課せられた役割を果たして参りたいと存じます。