はじめに
今年3月の総本山での臨時総会で、依頼者見舞金制度の導入が決議された。
個人的にはこの制度の導入に反対していたので、まずは以前の記事を紹介しておきたい(「依頼者見舞金の展望:アメリカの状況を踏まえて」)。
臨時総会での決議がなされた翌月に出版されたのがこの本である。内容としては、2014年に開催された法曹倫理国際シンポジウムの記録であるが、依頼者見舞金制度導入のタイミングを踏まえて慌ただしく出版された印象を受ける。
感想
本書のハイライトは、須網教授と弁護士のディスカッションが噛み合っていない場面である(59頁以下)。
須網教授は、隣接士業と重なる弁護士業務が行政の監督を受けないのはおかしいとか、問題会員への弁護士会の指導・監督が足りないといった趣旨の指摘をされる。司会者は「いろいろプロボカティブな質問」と取り繕ってはいるが、いささかトンチンカンな問題提起である。
それで、弁護士側から説明がなされると、「私は、ちょっと実務があまりよく分からないので」だとか「ちょっともしかすると、趣旨が伝わらなかったかもしれないのですけど」などと始まる。本当に大丈夫かという感じである。
石田准教授の論考への意見は以前にも書いた。最近も寄稿を見掛けたが1、アメリカと同様の制度を導入することの単純明快な説明に終始している。
今も横領被害は起きる中、国際的やら未来志向だとか悦に入っている場合ではない。一体何のシンポをやっていたのだろう。
法曹倫理の課題
ところで、ちょっと実務があまり分からないなんて仰っている須網先生、別の所では給費制復活運動を目の敵にして弁護士会を罵倒している2。大変正直な人なのだと思う。
こうなってくると、理論と実務の架橋どころではない。相互不信の根深さは、法曹養成制度に暗い影を落としている。
つまらないからなのか学生には評判が悪い科目であるようにも聞こえてくるが、法曹倫理を教えないならロースクールはなくてもよい。法曹倫理の理解は道を踏み外さないために不可欠なだけに、机上でもしっかり身に付けて実務に出ていく人が増えることを祈っている。