公聴会の感想

前のブログ記事で日弁連会長選挙の公聴会で応援演説をしてきたということを書いたが、公聴会に出席したのは初めてであった。

折角なので、多少の感想めいたことを記しておくことにしたい。

出席に至るまで

今回、参加することになったのは、応援演説をしてくれという話が飛んできたためである。そりゃあいいんだけど、公聴会の会場である札幌までは片道3時間は掛かるので正直遠いんだよな…とは思っていた。

そして当日になってみると、記録的な大雪で札幌行きのJRは前日から引き続いて運休した。お役目もあるのに行けないのではマズいと思って調べると、なぜか高速道路は開通している。ここは万難を排してでも駆けつけて応援せねばならない。ということで、車で厳冬期の日高山脈越えである。運転技能の向上には役立ったかもしれない。

公聴会の開催方法について

やっと札幌弁護士会館にたどりつき、公聴会の開催に間に合った。しかし、公聴会自体も新型コロナウイルス蔓延の影響を受け、本来は現地出席する候補者も東京からテレビ会議での参加という形になっていた。

仕方ないが、これは残念だった。なお、テレビ会議出るために山を越えて行かなきゃならんとは何たることか、とは思った。

公聴会の進行

公聴会は選挙管理委員が取り仕切って、決められた手順と制限時間のとおり厳格に行われる。候補者の所見の発表順もくじ引きで決まり、それに合わせて補佐人の応援演説や席の位置も決まるが、その結果、日弁連副会長経験者が両脇にどっしり鎮座する間に座ることになってしまった。

両脇の副会長経験者は、応援演説もまずは公聴会の設営者への感謝等から入り、堂々と自陣営の政策の優位を論ずるなど、いずれも盤石の横綱相撲ぶりであった。

一方、当職といえば、いきなり本題に入って他陣営に対する明白な皮肉をぶちかますなどしていたのであり、いささか己を恥じた。

公聴会を経ての感想

三候補者の各政策は、それぞれのウェブサイトでも見てもらえれば良いかと思う。ただ、意外と違いが浮き彫りになったりした点もあると思ったので、若干のコメントをしたい。

法テラスの報酬を上げろという点は三候補共通する。ただ、法テラスの拡大について国民的理解が進んでいる状況とは言い難い。どういうわけか、我が国には強力な弱肉強食主義の空気があり、貧しい人がサービスを受けられないのは自己責任、とか言い出す人に多数が追従しそうな雰囲気が充満している。本当は、いつでもだれでも貧困に陥ることはあるから、そうなった場合を想像して色々な社会制度の手当てをしておく必要があるはずなのだが、理解者を増やしていくことは容易ではない。

法テラスの報酬の問題に限らないが、日弁連の掲げる政策を実現する手法については、候補者間での相違を感じる。小林候補や高中候補は、政治家や政党との協力関係を重視する立場のようであるし、及川候補は市民運動を通じて実現することを強調している。これは、日弁連が各政党に等距離に接近して司法改革関連法案を成立させた成功体験を踏まえるのか、あるいは、市民運動を積み重ねて貸金業法の改正に至った成功体験を踏まえるのか、といった潮流の違いに思えた。もちろん、制度的なものを変えるにはいずれも必要であるが、人によって政策実現のアプローチの順序の違いは出るのかもしれない。

以下、個別の候補者について。

  1. 小林候補は最大単位会の最大派閥が出した保守本流ど真ん中の超ド本命候補である。公聴会での受け答えも安定感があり、平時ならこういう人が会長職を務めるのであろう。しかし、そのご経歴を拝見すると、法務省の法律扶助制度研究会幹事に始まり、日弁連では法律扶助制度改革推進本部事務局次長、司法改革実現本部事務局次長、リーガルサービスセンター問題対策本部事務局長、日本司法支援センター推進本部事務局長、日本司法支援センター推進本部副本部長と務めてきており、まさに、司法制度改革の前後を通じて法テラスの制度構築のど真ん中にいた人である。それ故に、法テラスの報酬が低すぎるという不満が噴出していることは不本意で、自らの手で改善したいとの思いもあるようだったが、法テラス政策の中心にいた責任はもはや免れ得ないのではないか。そうであれば、同じ人にその改善を任せて大丈夫か、といった思いも浮かんでくる。

  2. 高中候補による弁護士倫理に関するお話は大変迫力に溢れるもので、これを聞くだけでも公聴会に出る価値があった。話を聞く人が増えていけば、圧倒的多数の会員が職務基本規程の改正に賛成する情勢も形成されるであろう。皆、ご著書である『弁護士法概説』『弁護士の失敗学』『弁護士の経験学』を買って今すぐ読んで、日々の業務にその知見を反映すべきである。例えばであるが、今後は弁護士倫理の語り部としてBLT(ベンリン・レジェンド・テラー)のような役職を設けて、末永く弁護士倫理の普及と発展に尽力していただきたいということを思った。

  3. 及川候補の弱点は、司法試験合格者を1000人以下にすることを主張する点そのものにあると感じられる。そもそも、1000人以上の合格者を出していた時期に合格した人が合格者抑制に心理的な嫌悪感を持つ場合もあろう。また、合格者減の論拠として、弁護士の所得の中央値が激減したこと(2006年に1200万円だったのが、2020年には700万円になった)を掲げている点についても、近年は日本社会そのものが貧しくなっているため「所得の中央値700万だったら十分高給取りじゃん。それで食ってけないとか何寝言言ってんだよ。」との批判は予期せねばならない。所得の問題だけを押し出すと、業界内からはともかくとしても、社会的な支持は得られにくい問題だという懸念がある(ただ、これは、所得水準が向上しないまま相対的に世界で貧しくなってしまった日本社会の現状を恨むしかない面もあるため、何だか色々とつらい。)。

    むしろ、法曹養成の問題では、法科大学院に入学しなくとも司法試験を受験できるようにするべきだ、とはっきり言っていることに及川候補の独自性がある。こちらも直ちに実現できる問題ではないが、実は、結構多くの人がそう思っているのではないか。

    元会長の宇都宮健児先生が支援者に名前を連ねているから支持しないという意見も見たが、宇都宮会長の時代は主流派が会長ポストを取れなかった特異な時期であり、それ故にトラウマになってる人はいるのかもしれない。誰が支援者に名を連ねているかに関わらず、自分の信じる政策をいかに多くの会員に浸透させていくことができるかということが課題というべきであろう。

その他

公聴会は初めての参加であったが、土曜日の午後が丸つぶれになるし、大雪でもあったからか、参加者は多いとはいえなかった。しかも、主な参加者は、日弁連副会長を経験しているような御歴々か、会務をしっかりやってる中堅の先生方である。札幌会以外の参加者というと、私と、利害関係があると称していた旭川の某先生くらいであったと思う(函館の人が誰か来てたら申し訳ない。)。わざわざこれだけのために移動するというのも大変である。

政策冊子やウェブサイトを見るよりも候補者の考え方が良く分かるイベントではあるので、より多くの人が参加してもらえるようにすると良いかとは思った1


  1. 若干の加筆修正を行った(2022年1月22日) 

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