会長落第記(4)

法曹養成制度

法曹養成制度改革実現本部というのが理事会内の本部として存在している。理事会内本部であるから理事会でのご説明をしていただく機会があるのだが、2020年度は、未修者対策という点に関する議論状況の報告が多かった。

未修者の問題

法科大学院の未修者の問題がどうなっているかということについて概略を述べておくことにしたい。法科大学院の標準終了年限は本来3年と定められている1。確か早稲田の法科大学院は創設時にこの基準に忠実な対応をしたように記憶している。しかし、法科大学院の不人気ぶりや合格率で負けるといった問題が次第にはっきりしてきたこともあり、現在の法科大学院の基軸は、法学既修者を前提とする2年制のコースになってしまっている。

特に、法学未修者の司法試験合格率というのは著しく低迷したままとなっている。令和2年でいうと、非法学部出身の未修者の合格者は58人(全体の合格者は1450人)であり、対受験者合格率では14.83%(全体の合格率は39.16%)という状況である。

それで、このことは、司法制度改革が目指している法曹の多様性を確保するという目標に沿わないということで、改善する必要があるというのである。まあ、新たな関所を作っているのだからむしろ多様性が確保できないようなことになっても予想の範囲という気もするのだけれども、そこはさておきということである。

対応策???

ただ、文部科学省の中央教育審議会法科大学院等特別部会で2年近く延々と議論して出てきた一応の対応策というのが、ICTの活用とか補助指導員の活用みたいな話だったので、正直言って結構ずっこけた。いや、確かに、同部会の議事録を見る限りはこの部会に参加されていた菊間先生とかよく頑張っておられて、社会人がなぜ未修者コースに行かないのかなど実情を良く説明されていたのだけれども、それにしても出てきたものがアレ過ぎるのだ…。

法科大学院を作るときにはあれだけ双方向とか多方向といって予備校を猛烈に敵視していたというのに、これでは伊藤真の塾でビデオを見てチューターの指導を受けるのと何が違うのだろうか。すいませんうまくいきませんでした、そこでこれこれこう改めてみます、という流れであればまだ分からなくはないが、そこに蓋をしたまま、次々と繰り出されるのが法科大学院の延命策でしかないというのが致命的にダメ過ぎるのである。

しかも、その問題について法曹養成制度改革実現本部がこんな雰囲気(=文科省での議論を紹介して垂れ流すだけ)だということは、日弁連は法曹養成の問題について影響力を発揮できていないのではないかという印象を受けた。

つまり、法曹養成制度の在り方にしても、既に法律家団体の手の届かないところに行ってしまっているのである。やはり、法科大学院の導入と引き換えに、我々は毒まんじゅうを食わされてしまったようである。

まとめ

そういうことで、この本部の活動については、中教審の議論を垂れ流して理事会に報告することには熱心であるが、一体何をやっているんだろうかと考えていた。

もちろん、未修者教育の問題に限らず、総本山の雰囲気としては、法科大学院は法曹養成の中核であると題目のように唱えてやたらと予備試験を敵視しているし2、プロセスによる法曹養成と言ってたはずなのに3年+2年の法曹コースによる促成を推進しているといった根本的な問題もある。ただ、それ以上はここでは申し述べない。

結局、この間の議論というのは法科大学院をどうやって存続させるかということに終始しており、大変うんざりするものであった。入ってくる学生が別に悪いわけではないし、一部の定評ある法科大学院は存在意義を発揮しつつあるのかもしれないが、全体としてみれば法曹養成の仕組みそのものが自壊してしまったように思えてならなかった。

(つづく)

 


  1. 専門職大学院設置基準18条2項 

  2. 一例を挙げると、日弁連は弁護士志望者のために「弁護士になろう!!☆8人のチャレンジ☆」「弁護士になろう!!☆8人のチャレンジ☆vol.2」「弁護士になろう 8人のチャレンジ 社会人編」という3種類のパンフレットを作成しているが、これらに登場する合計24人の弁護士は全員法科大学院出身の経歴が表示されており、予備試験を経由したという経歴が表示されている弁護士は0人である。予備試験経由者の割合を考えると、編集に何らかの意図を感じざるを得ない(なお、この点は、理事会においても当然に指摘した。)。https://www.nichibenren.or.jp/legal_info/top/howto.html 

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