クオータ制による日弁連副会長の選出方法を問う

2018年度から、日弁連では副会長の定員を2名増やして15名とし、増員した2名について女性を充てるというクオータ制による副会長選出の制度を導入しています。

この制度により推薦者を集めて副会長候補者の選考に参加したものの、残念ながら落選することになってしまった兵庫県弁護士会の武本夕香子先生が次のようにツイートしています。

おつかれさまでした。

ところで、クオータ制による日弁連副会長については、そのような制度があることは一応知られていても、具体的な選出方法までは余り知られていないのではないかという懸念があるところです。そこで、この機会にまとめてみることにしたいと思います。

クオータ制副会長選任の流れ

クオータ制副会長の選出過程は、第一次推薦⇒第二次推薦⇒代議員会の決議、という流れになっています。

第一次推薦の主体は、弁護士である会員、弁護士会、及び弁護士会連合会です。但し、人望のない人が推薦されてもいけないので会員の推薦による場合には50人以上の推薦者を集める必要があります。

第二次推薦というのは、第一次推薦にて推薦された候補者について、選考のための審議を経た上で候補者2名を選出して代議員会に対して推薦することです。

そして、最終的には毎年3月に開催される代議員会の決議によって選任されますが、代議員会は形骸化しているので、手続上の関心は、第一次推薦の実情と、第二次推薦における選考審議の在り方にあります。

第一次推薦について

そこで、まずは、第一次推薦は実際どのようにされているのかということです。

規則上では会員による推薦の仕組みが掲げられておりますが、実際上は、弁護士会のうちでも大規模会(=東京三会と大阪)と、弁護士会の集まりである弁護士会連合会による推薦がなされることを念頭に置かれているようには思われます。

実際、この制度に併せて大規模会と各弁連による連絡協議会なるものが設けられることになり、候補者を調整しています。具体的には、クオータ制により向こう5年間で10人の副会長枠が新たにできましたので、そのうち8枠を各弁連に1つずつ、また、2回来る奇数年度の各1枠ずつの合計2枠を大規模会のいずれかに割り当て、順に推薦するということのようです。

ということで、第一次推薦については、いずれかの大規模会か弁連が、確実に各年度2名を第一次推薦の候補者として推す、という事実上の仕組みにはなっています。

なお、何でそんな申し合わせがあるのかというと、この制度による候補者を安定的に出せるかどうか懸念があったとか、そのようにしないと女性の弁護士が相対的に少ない地方からの候補者を出せなくなる懸念があったと言われています。

黙殺された申し合わせ

と、ここまで書いていたのですが、やはりそのような仕組みは一般には知られてないようなので、先日の理事会の折に「クオータ制の第一次推薦では大規模会と各弁連の申し合わせがあると聞いているので、その点について説明してください。」と質問しました。

ところが、この点について担当副会長は「そのような申し合わせは存在しません!」と言い放ってました。

しかし、うちの弁連では、次々年度にそのような仕組みで推薦する順番が回ってきて候補者を出さないといけないという話が実際に出ていたところでしたので、全くあきれて二の句が継げませんでした。この担当副会長の答弁は、申し合わせの存在を知ってて否定しているなら事実に反しますし、知らないで答えているなら担当者として何故そんな重要な取り決めを知らんのかということになりますので、どっちにしてもダメです。

そういう次第で、そのような申し合わせは公式にはないことにしておかないといけないのかもしれません。知らんけど。ちなみに、2017年12月の臨時総会での議案の趣旨説明で「各会から偏りなく継続的に候補者が推薦されるよう弁護士会連合会間の情報交換等を円滑に行うための連絡協議会の開催も予定している」とあるので、候補者調整が当初から予定されていたこと自体は公にはなっているのですが…。

第二次推薦について

次に、第二次推薦の手続はどうなっているのか、という問題があります。

第二次推薦に当たって、男女共同参画推進特別措置実施のための副会長候補者推薦委員会による選考が行われ、第一次推薦の候補者の中から2名を選出して代議員会に対する推薦をすることになっています。

この選考委員会の構成は、男女共同参画推進本部の本部長1名、同本部の推薦者3名、各弁連の推薦者8名、東京三会及び大阪会の推薦者4名となっています。男女共同参画推進本部長というのは日弁連会長のことであり、選考委員長を務めます。

この委員会の選考審議は非公開でありますし、守秘義務も規定されておりますので、外からはどのような基準で選考しているか窺い知れません。しかも、2020年度の委員の構成としては全員が日弁連副会長経験者である上に、うち12名は候補者調整の当事者である大規模会または弁連から推薦されている立場の人たちですから、第一次推薦の申し合わせについて皆さん知らないってことにはならないはずです。

そうすると、第一次推薦に関する申し合わせがある限り、その枠組み以外で出てきた候補者を第二次推薦の候補とすることは期待できない構造にはなっています。

そういうわけで、武本先生が能力意欲共に抜群で500人を超える推薦者を集めたとしても、現状、仕組み的には勝負は決まっているということになります。もちろん、武本先生はそんなことは分かった上で応募されていると思いますので、その決意の強さには並々ならぬものがあったのだろうとは思います。

今後について

次期の候補者2名は決まったわけですが、クオータ制が導入されて次が4期目ということですから、まだまだ過渡期でもあり制度運用の課題は少なくないということはあるのかもしれません。しかし、時代の経過とともに、第一次推薦の段階での候補者が充実していくよう期待したいところです。

また、この制度は、制度実施後5年が過ぎた時点で見直しをするということになっていますから、実際に第一次推薦で意欲的な候補者が出ているという事情も踏まえた上で、例の申し合わせのようなものについても、なかったことにしないで本当に必要なのかどうかきちんと議論する必要があると思います。

もちろん、地域的な偏りをなくす必要があるとか、自分の属する地区からも副会長を出しやすくしたいというのはあるかもしれないのですが、本来的な制度趣旨からいえばこだわるべき問題ではないようにも思います(ここは異論もあるかもしれません)。究極的には、このような制度がなくても良い世界になることを願う次第です。

最後に

最後に、若干の暴言を吐いて締めくくることにします。

弁護士業界の全体の女性比率は増加して来ているとはいえ、未だに20%には満たない状況です。そういう状況で放っておいても日弁連役員の女性比率は向上しそうにないという背景もあってクオータ制が導入されたと理解しています。しかし、そこはどうやって制度に魂を込めるかが重要で、昔の感覚で候補者調整を続けるというようなことになると、所詮はそのような仕組みで出てきた人にどこまでのことを期待できるのかということになりかねません。

ちょっと話は変わりますが、例えば、選択的夫婦別姓はいつになったら実現するのかと思いながらどこかの国の女性の与党議員たちを見ていると、こいつら普段から派閥の上の方のオッサンの好きそうなことばっかり言って媚びへつらってるだけじゃねえか、あるいは、オッサン以上に思想や立ち居振る舞いがオッサン過ぎるじゃねえかと思うことがあります。我等の日弁連の在り方にしても、民主的で公明正大な役員の選任をすることを心掛けない限り、根っこのところでは同じことのようにも見えてしまうのです。

日弁連の会員の中からも重要な組織変革をもたらす起爆剤となる人が次々と輩出され、性差に関係なく人間が各自の能力を発揮できる社会の実現を最先端でリードしていくことができるよう、これからに期待したいと思います。

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