日弁連では、法曹養成制度改革実現本部の中に法曹人口検証本部というものを立ち上げることになった。
現会長が何言ってたか会員諸氏に記憶喚起すべく晒しておこう。 pic.twitter.com/9dwVAIuAoN
— いわぽん (@yiwapon) July 11, 2020
「若者がためらわずに法曹を目指せる法曹養成制度改革に取り組みます。」「直ちに合格者数の検証を開始し、法曹人口の次の課題について議論を進めます。」とあるように、法曹人口の検証は現会長の選挙公約として掲げられていた政策の一つでもあるので、そのための取り組みの一環ということなのであろう。
メンバーが決まってない?
この検証本部のメンバーの人選は会長指名ということになっている。
ところが、9月の理事会での話を聞いていると、埼玉、千葉県、長野県の各会は単位会側から推薦している人を会長が指名してくれないということであったり、大分についても指名された先生が辞退しているとのことなので、同本部のメンバーは固まったわけではない。
それでも、検証本部の第1回会議を9月14日に開催するということだったので、えっメンバーも決まってないのに何で会議が開催できるんだ???という素朴な疑問が生じざるを得なかった。
議事録がない?
さて、そんなことで、9月14日には検証本部の第1回全体会議が開催されたみたいである。
本日の日弁連「法曹人口検証本部」第1回会議で以下のとおり決定。
傍聴禁止。議事録作成せず(議事概要を理事に送付)。代理出席禁止。長野、埼玉、千葉会から委員が出席できなくとも今後も開催。
傍聴も議事録もなし、委員確定も不要とは…
まず「検証本部」の正当性を検証する必要があるのでは。— 及川智志 (@ShminLo) September 14, 2020
もう何が色々とヤバいかという点については、及川先生のツイートで言い尽くされている。
ほどなくして、理事である当職のところには「議事概要のようなもの」が送られてきた。それ見て議論状況チェックしてくれ、ということらしい。
それでもって見てみると、せいぜい会議の議題とそれについて執行部側の人たちが言ってることをペラっと書いてある程度のものであり、誰がどのような発言を具体的にしたか詳細に確認できるものではなかった。
これでは、検証本部と銘打っていながらその議論状況が検証できないという矛盾極まりない組織である。まるで謎の秘密結社だ。
公表できない?
仕方がないから、議事概要のようなものを受け取った当職としては、自分の会の会員に対して「そもそも当会からは法曹人口検証本部に委員を出せてない。そうすると何か意見があっても示す機会は理事会しかないので、議事概要のようなものを確認して意見があったら知らせてくれ。」と周知することにした。
なお、同本部の議論や資料については、会員向けに知らせるのは良いが、結論が出るまではくれぐれもマスコミに漏らしたりSNSで流したりするな、というお達しがあった。そこで、当職は努めて公明正大に対処すべく、まずは会員のみに直接意見を求めることにしたのである。
今年の定期総会ではSNSで集まった人たちが一部の議案について公然と反対論を唱えたりしたので、会務に関する情報が一般に流れることを執行部は相当嫌がっているのだろう。 しかし、法曹人口を巡って生じたここ20年くらいの諸問題というのは色々なところで顕在化しているし、関連する公開済み資料も少なくない。思うように情報をコントロールすることは無理であろう。それだけに、情報の流通に一律に縛りを掛けようとするのは時代の状況を見誤った話なのである。
もっとも、影響が大きいから議論状況は表沙汰にすべきではないという理屈はあるかもしれない。しかし、安心してほしい。日弁連が何かやったところで、自分たちで思っているほど社会的な影響があるわけではない。
一体何がしたいのか?
こうしてみると、会長がやると言っていた検証というのは一体何なのだろうか。
検証本部はメンバーが決まらないまま始めるし、傍聴はさせない上に議事録は作らないというし、さらには中身は漏らすなというのである。要は、思った通りにコントロールして議論を着地させるという意図が最初から見え透いている。そしてどこに着地させるかといえば、従前の法曹人口問題に対する方針を覆さない範囲に収めるしかない。何故なら、自分たちが関わってきたことが間違ってましたと言わなくて済むからである。
そういう予定調和的なものはおよそ検証とは言わない。
正統性を問う
検証というものは、都合の良いことも悪いことも含め、様々な利害関係者の視点も取り入れつつ、虚心坦懐に行うべきものである。
当職が一番問題であると考えているのは、執行部のやってることに正統性(レジティマシー)がないという点である。正しいかどうか(正当性)という点では必ずしもなく、皆が是認するような手続を踏んでいるか(正統性)という問題である。このような問題意識については、理事会でも繰り返し申し上げている。
そもそも、メンバーも決まってないのに議論を始めたりしているようでは、その会議体で決めたことに誰が従おうと思うだろうか。長いものに巻かれるモットーの人間で構成される組織ならともかく、我々日弁連はそんなものとは対極的な人間を多数包含する組織である。火薬庫にに火種を投げるような真似をしてどうするのか。反抗する大義名分がありさえすれば嬉々として争う人も出てくるだろう。「そんな物事の決め方をする奴らの言うことなんか聞いてられるか!」となる常に5秒前なのである。
ところが、理事会に実際参加してみて各種の会務執行の実情を知るにつけても、一事が万事そんなような感じでやっているので、誠に困ったものだと思って見ている。
そういうことで、検証本部の検証には期待はしていないが、しかし、議論状況には十分に注意しておきたい。法曹人口に関する問題は司法試験の合格者数の問題にとどまらない。より広く、法曹養成制度全体を俯瞰しての検証を要すべき問題である。当職としては、これらに関連する事項については、独自に会員の関心を喚起していくこともまた大切であるというように考えている。