日弁連理事の役割

当ブログを改修してまだ一月も経っていないが、改修早々に新型コロナ法テラス特措法の問題が生じたこともあって、当職はブログ記事を中心として会員への関連情報の流通に鋭意努めている。

このような活動に対しては、内々の話を外に向かって話す必要もないといった意見も出るかもしれない。

しかし、当職は日弁連理事の一人として、その政策的意思決定に関する情報が一人でも多くの会員との間で流通することを促す必要があると確信している。以下、その理由を説明する。

理事会とその構成

日弁連の理事会は、会運営に関する重要事項等を議決する機関である。その構成員は、会長(1人)、副会長(15人)、及び理事(71人)である。なお、日弁連会長は任期2年として直接選挙で選任されるが、副会長と理事は任期1年として代議員会で選任される1。理事会の議決は、会則改正の場合を除き過半数で決せられる2

数のバランス

さて、これらの仕組みと数字を踏まえて考える。理事会の意思決定は原則として単純多数決でなされるが、理事会の構成員数は87であるから過半数は44である。

東京三会、大阪、愛知県の5会の会長は日弁連副会長を兼務しているから、日弁連副会長ではない単位会会長が兼務する理事(以下「兼務理事」という。)の数は47となる。これが団結すると過半数には到達するが、そう単純でもない。会長を補佐する役である副会長を出した会の兼務理事は、自会から出た副会長には逆らいにくいのが人情というものであろう。そうすると、そのような会は常に8つあるので残りの兼務理事39人が結束しても過半数は取れない3。つまり、地方選出の一兼務理事ごときが何か言ったところで、執行部がパワープレイに走って会務を執行し始めたら止められないのである 4

地方会の代表として

そういった状況で理事の一議席を占めることになった者として情報の流通に努めることには、主に二つの目的がある。

まず一つは、地方会の代表としての意見を理事会に伝えるのはもちろんのこと、それが反映される可能性を少しでも高めることである。

日弁連は個々の弁護士だけでなく各地の弁護士会をも構成員とする団体であるから、各会から選出された理事にそのような役割は当然期待されている。

埋もれた意見を掘り起こす

もう一つは、会内で期せずして埋もれてしまった会員の意見を糾合して理事会に届け、少しでもそのような意見が会務執行に反映されるようにすることである。その必要性について少し述べておきたい。

いささか昔のことながら、派閥の領袖による座談会において高中正彦先生が次のようにご発言されている。

私は、今後は会派間の対立ではなく、会派に属している人と属していない人、「派閥派」と「無派閥派」の対立が問題になるのではないかと思います。今後、自分たちに会費に見合った恩恵を与えるのが弁護士会だととらえ、恩恵を与えてくれなければ、会費も払いたくないと考えるような「無派閥層」の人たちがサイレントマジョリティになってくる危険性がないではない。そうなると、弁護士会は、自治団体としてある必要はない、単なる業界団体でいいのだ、強制加入である必要もない、研修センターみたいな組織になってかまわないのだということになりかねません。このような考え方をする会員が大半を占めるようになったときは危険だなと思っています。会派というのはなくなり、強制加入もなくなり、会員が会費を払った見返りとして研修をする団体に弁護士会はなってしまうかもしれない。しかしそうなると、人権活動はもとより、綱紀・懲戒制度も国家の管理下に置かれるようになってしまうし、そんなことでいいのかと思っているんです5

つまり、都会では様々な理由で派閥のグリップ力が低下してきたことも手伝い、会内の政策的な意思統合が難しくなっているという問題が起きているのである6

その結果、派閥は会務の中枢に人を送り込む人事推薦機能だけはなお強力に維持しているものの、送り込まれた会員と一般の会員の間には会務執行に関する感覚のずれが生じている懸念がある。そうすると、会務や派閥と距離のある会員の会務執行上の不満は、どこまで行ってもすくわれることなくさまよい続ける。

それが何を招くかといえば、高中先生が予想されたとおりである。しかも、指摘された危険は既に現実化しつつある。そうであるから、今こそ、埋もれた意見を掘り起こして糾合していく役割を日弁連理事は果たさなければならない。もっとも、当職の場合は地方会の代表としての役割に矛盾すべきでないという限度はあるかもしれないが、少なくとも宛て職ではない非兼務理事の16人にはそのような役割が期待されていると思う。

理を尽くして広く問う

以上のように考えて何か言ってみたところで、少数意見であることが多いかもしれない。

しかし、「正しいものが通るというのが司法の司法らしさである」と佐藤幸治教授が1回目の授業で言っていたことを私は決して忘れてはいない。同様の価値観に立脚すべき法律家にて構成される理事会では、少数でも正しければ通るはずである。それでもなお数は力だという局面が来ようものなら、最終的に埋没する少数意見を補うための世論喚起は不可欠となる。だからこそ、少数意見であっても理を尽くして広く問うことは大切なのである。

そもそも、日弁連は公益的な団体であることを標榜しているので、政策形成過程が広く知られることは、優れて公益的な意味を持つものであると当職は確信している。実際、理事会で何が行われているかは会員にすら知られてなさ過ぎるのである。だからこそ、理事会の状況についてはまず自会の会員に報告した上で、更に必要があれば広く発信することに努めている。

特に、日弁連の活動が立法に対するロビイングに至る場合、立法により国民一般の権利義務に影響を生じさせる以上、活動の透明性が強く要請される。理事会にも知らせられないような活動を執行部限りでコソコソとやってるようなのは正統性を欠いている。そのような疑問点があることを、理を尽くして広く会員に対して問うことはむしろ理事として当然の務めである。誰が止めようとやめるつもりはない。

声を上げよう

当職は、以上のような考えを基礎にして情報の流通に努めている。どこかの副会長のように思いつきでブログを書いているのとは訳が違う。

また、情報の「発信」ではなく「流通」に努めていると書いているのは、自分が発信するだけでは足りず、それに呼応した会員が声を上げることで表に出てきた意見をまとめて、然るべき場所にぶつけてくることが自らの役割と心得る故である。

会員の意見が会務執行に少しでも反映されるようにすることで、この法律家団体が自分の力で統治されているという感覚を一人でも多くの会員に持ってもらえるようにするのが最も大切である。それが、先に引用した高中先生の懸念に対する処方箋であろう。

これまで、気の乗らない時もありつつも、地道にブログを書いたりツイッターをやるなどして自力で情報を流通させる手段を小さいながらも維持してきた意味も、昨今の時勢に至り多少出てきたのかもしれない。大変ありがたいことに、自分の意見を書き連ねていたところ少なからぬ激励もいただいた。そろそろ本気を出すことにしたい。

 


  1. 単位会の会長は当然に日弁連副会長や日弁連理事に選任されるわけではない。毎年3月に開催される代議員会での選任手続が必要である。ただ、代議員会では、8つある各弁護士会連合会の推薦した人選どおりに、各単位会会長が副会長または理事として選任される慣行になっている。 

  2. 詳細は山中理司先生のブログに詳しいので、是非ご一読をいただきたい。
    https://yamanaka-bengoshi.jp/2019/07/06/nichibenren-rijikai/
    https://yamanaka-bengoshi.jp/2019/06/29/nichibenren-riji/ 

  3. 北海道1、東北1、関東2、近畿1、中国1、四国1、九州1の合計8会。どの会からその年度の副会長を出すかは、各弁連ごとに選任のルールがあると思われる。なお、この他に、男女共同参画枠での女性副会長の枠が2つある。 

  4. もちろん、実際は、理事会に付議される議案は正副会長会という事実上の会議(なぜか会則等には根拠がない)で調整された上で出されるし、理事会で異論が出れば継続審議となる場合もあるようだから、理事会で否決されるような議案の採決が初めからなされることは普通はないと思われる。 

  5. 「東弁における会派ーその現状と未来ー」LIBRA2011年2月号6頁以下の高中正彦先生のご発言より。高中先生は大変的確な予測をされているが、この他にも座談会に出席している派閥の領袖の方々は様々な懸念を述べている。そして、それらの懸念が座談会から10年近く経った今でも解消されているように見えないのは、もはやホラーでしかない。
    https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2011_02/p02-17.pdf  

  6. 中規模以下の単位会では、派閥というのを単純に会務に置き換えた類似の状況があるかもしれない。 

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