城跡と裁判所 総論

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今の東京高裁・地裁の場所にあった大審院
(国立国会図書館ウェブサイトより)

弁護士の仕事をしていると、事件によっては各地の裁判所で手続を行う必要が生じることがあり、その場合、裁判所の管轄などを調べなければなりません。そこで、弁護士業務便覧という小冊子を参照することがあります。

その小冊子に載っている裁判所本庁の住所を眺めていると、裁判所の立地にはある共通点が存在するのではないかと思ったのでした。

共通する地名の由来

例えば、福岡市にある福岡高裁・地裁の所在する場所を地図で見てみると、「城内」というだけあって、福岡城跡に立地しているということが分かります。また、福岡家裁も、「大手門」という地名のとおりで、福岡城の大手門のほぼ向かいに立地しています。

全国各地の裁判所本庁の所在地の住所のうち、その町名を見ると、次のようなある一定の特徴があることが分かります。

「大手」・「追手」

大手町(前橋地裁・家裁)・追手町(静岡地裁)・大手前(大阪家裁)・大手門(福岡家裁)

「丸」

三の丸(名古屋高裁・地裁・家裁)・丸の内(金沢地裁・家裁、高松高裁・地裁・家裁、高知地裁・家裁)、内丸(盛岡地裁・家裁)

「堀」

上八丁堀(広島高裁・地裁・家裁)・南堀端町(松山家裁)

「城」

城内町(静岡家裁)・城内(福岡高裁・地裁)・千葉城町(熊本家裁)

このように、裁判所本庁の所在地の住所には城に関係する地名が含まれていることが多く、そのような裁判所本庁はいずれも城跡ないしはその近傍に立地しています。そうでなくとも、城跡の近傍に立地する裁判所本庁はかなりの数に上ります。全国的に見れば、半分以上の確率でそうなっているはずです。

そういえば、あまり意識したことがなかったですが、東京高裁・地裁も現在の皇居、すなわち江戸城跡の桜田門外にありました。これは元々大審院があった場所です。今の最高裁判所も昭和49年に建っていますが、偶然なのかそうでないのか、皇居の堀に面した場所です。

裁判所支部の立地

気になったので、有名な城が存在しており、かつ裁判所支部のある街として滋賀県彦根市の地図を見てみたのですが、やはり予想に違わず、ひこにゃんが出没しそうな場所に裁判所がありました。

もう一つ、有名な城が存在しており、かつ裁判所の支部がある街といえば長野県松本市があると思い、調べてみると、これも予想したような場所に裁判所がありました。

このように、裁判所支部や簡裁でも、「お城の傍の裁判所」は他にもかなりの数があると思います。例えば、弘前、鶴岡、小田原、丸亀、中津、などもそうでしょう。「うちの裁判所の近所にも城跡がある!」という情報があれば、是非お寄せ頂きたいところです。

現代のお白州

城というのは、古来からの政治権力のシンボルともいうべき場所です。立地の経緯はそれぞれでしょうが、裁判所がそのような場所の傍らに立地することは、裁判所の持つ司法的な作用も古来より連綿と繋がる権力作用の一つに他ならない、ということを象徴しているように思います。

無論、日本国憲法下における裁判所は、三権分立の原則により立法・行政から独立して司法作用を担うこととされましたが、その位置取りだけでいえば、昔から続くお白州的な存在感があります。

もっとも、裁判所の立地としては、城跡のど真ん中などではなく、堀に面した場所や、山城の麓のようなところに位置することが普通です。その微妙な位置取りは、一応、政治権力を客観的に見ることができるところに位置する機関である、ということを象徴しているのでしょうか。

城跡巡りと裁判所

以上、「城跡の傍に裁判所有り」ということで、城跡好きな人なら、城跡を巡った際には近くに裁判所があるかどうか気を付けて見渡してみると、新たな発見があると思います。

また、全国津々浦々の法廷を巡る多忙な法廷弁護士の皆さんも、あるいは、転勤が頻繁で忙しい裁判官や検察官の皆さんも、各地での仕事の傍ら少し時間が空いた時には、城跡を訪ねて古来からの歴史に思いを馳せてみるのも良いかもしれません。

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